第 八 回 瓔 珞 便 り  (昭和六十三年十二月十五日)

 今年は国内国外を通じて多事多難と申しましょうか、大きな事件が相次いで起こったようです。現在でも日本の国民はみな落ち着かない気持ちにさいなまれているように思われます。天候までも調子を合わせているのでしょうか。新聞によりますと、北海道は史上はじめて寡雪暖冬という異常気象で十二月も半ばを過ぎようとしている今でも札幌には殆ど雪がありません。先生方は如何お過ごしでしょうか。

 瓔珞便りも皆様のご協力を得まして第八回をお送りする運びになりました。有難うございます。今回も目玉商品にするつもりの先生方の葉書便りも昨年と殆ど同じ数だけ頂きました。私達の目的は充分に達することが出来たわけです。

 先ず最初にお伝えしなければならないのは、坂元義男先生のご長逝です。十月二日の朝、入院先の病院で急性心不全で眼を冥られたそうでございます。先生は数年前に奥様を喪くされ、座間市でご次男と共に淋しい生活を送っておられたのでした。明治三十四年に仙台市でお生まれになられたのですから、行年八十七才ということになります。旧制第二高校、東北大学理学部化学科を卒業され昭和三年に予科に赴任されました。予科教授在任中に理論化学の研究に力を尽くされ理学博士の学位を得られました。深い学識と透徹した学者的良心とが強く予科生の心を捉えたことは皆様ご存知の通りであります。そのような学者が戦争中学生主事を戦後は生徒係主任を引き受けられ、予科長の信頼を一身に荷われたのでした。恐らく先生ご自身も気がついていなかったであろう企まざる教育力がいぶし銀のような光を発しておられたことを深く感じられます。学制改革と共に理学部教授になり昭和三十九年に退職されましたが、この間教養部長として山積された問題に身をもってぶつかりましたご苦労は私達の心をえぐったものでした。先生についての思い出は余りにも多いのですが、今は只只ご冥福を祈るだけでございます。

 病床におられる渡部先生、小宮先生、三上先生などの全快の一日も早いことをおいのりしてお見舞いの言葉といたしたいと思います。

 今年もまたまた先生方のご著作が上梓されます。私の知りえたものを列記いたします。いずれも心を篭められた力作揃いであることは申すまでもございません。

 柴田治三郎先生   「バッハの生涯と芸術」(岩波文庫)  岩波書店

         先生の豊かなご学殖を偲ばせますご訳書です。

 佐藤昌彦先生    「ソロモンの裁き」    独歩書林  非売品

         先生のご両親佐藤昌介先生ご夫妻及び先生の恩師の思い出を語り併せて聖書についての随想が集められています。

 和田英夫先生    「学問の内と外」     日本評論社 2500

         公法学者としての学問的エッセイと随想が収められています。

 奈良岡健三先生   「私の競技半世紀 体育・スポーツの回想」

                ベースボール・マガジン社  予約価3000

         かっての競歩日本記録保持者で幻の東京オリンピックであった先生、の選手としての半世紀を綴ってあります。来年一月二十日ころ発売ですが、直接申し込まれた方には送料手数料含んで定価の一割引きで差し上げるそうです。昔を偲ぶよすがに如何でしょうか。

 大谷吉雄先生    「日本菌類誌第3巻第2号」 養賢堂  8500

先生の恩師伊藤誠哉先生(元学長・予科長)の命をかけられた大著ですが完成に至らず逝去されました後を継いで書き上げられた貴重な学術書です。

 

それでは先生がたなにとぞお健やかに

昭和六十三年十二月十五日    世話人代表  明 峯 俊 夫